東京地方裁判所 昭和43年(借チ)1032号 決定
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔決定理由〕一、申立人の本件申立の要旨は「申立人は、昭和二三年五月、相手方から、東京都葛飾区青戸町四丁目四一八番地271.07平方米(82坪)の内、126.97平方米(38.41坪)(以下本件土地という。)を、堅固でない建物を所有する目的で、存続期間を定めずに賃借し、木造瓦葺平家建、床面積49.75平方米(15.75坪)の居宅一棟(以下現存建物という。)を所有してきた。右賃貸借契約には、増改築の場合は地主の承諾を得ることという条件が付されている。しかし、申立人は、独身であるので、老後の生計の資を得るため間貸しをしたいので、別紙目録記載の改築を計画したが、相手方がこれを承諾しないので、その許可の裁判を求める。」というのである。
相手方の主張の要旨は「相手方が、本件賃貸借契約につき、増改築の制限の特約をしたのは、相手方は、本件土地に隣接する土地も第三者に賃貸しているので、これら賃貸地について、日照、通風その他住宅地としての快適な利用関係を確保し、ひいては個人住宅地帯としての近隣の生活環境を維持したいという理由に基づくものであり、本件賃貸借契約を締結した際、本件土地には、すでに現存建物が建つていたので、当然、本件土地に建てる建物は、平家建の個人住宅に限る趣旨で、契約を締結したのである。そして、申立人の今回の改築は、特に本件土地のほぼ北側に隣接する相手方所有地の賃借人である申立外村沢清吾宅に対し、日照、通風等の関係で著しい悪影響を及ぼすことになるので、相手方としては賃貸人としての責任上、これに反対せざるを得ない。」というのである。
二、本件資料によれば、申立人の前記本件申立の要旨の如き事実が認められるほか、次の事実を認めることができる。
(1) 本件土地は、間口13.15米、奥行9.8米の矩形状をなし、南側は巾員約3.715米の公道に面し、東側は約三米の相手方所有の私道に面している。本件土地の北側の土地は、申立外村沢清吾が相手方から約152.06平方米(46坪)を借り受け、木造平家建居宅を建築して居住しており、その北側に相手方居宅がある。また、本件土地の西側には、木造平家建の居宅があり、さらにその北側の土地を、申立外村田某が相手方から借地して、木造平家建居宅を建築して居住している。なお本件土地の東側私道の反対側は相手方所有の畑地である。近隣は普通の個人住宅地で、閑静な環境にあり、都市計画の施設としては、住居地域、準防火地域、第二種容積地区の指定がなされている。したがつて、本件土地の状況からすれば、申立人が、別紙目録記載の建物を建築するのは可能であるとともに、借地の有効的な利用を図る目的からして、合理的である。
(2) もつとも、隣接土地上の建物は、いずれも、境界線に近接して建てられているが、とくに、申立人の現存建物は北側の境界線から約0.85米の位置に建つており、それに隣接する前記村沢の居宅も、境界線から0.85米の位置に近接して建つているので、現在でも、日照、通風等が幾分妨げられていることが窺われる。そして、右の村沢の居宅は、昭和三九年に改築されたものであるが、同人は当初、二階建に改築すべく、地主である相手方の承諾を求めたところ、相手方がこれに強く反対したので、やむを得ず、現在の平家建に改築したものであり、日照等を確保するため、建築は凹形に建築され、南側中央に一辺3.45米位の正方形に近い小庭が設けられている。したがつて、申立人において、右村沢宅に対する日照、通風の阻害がさらに大きくなるような改築をするのは相当でなく、これを現状の程度に確保するためには、申立人の改築建物は少くとも、前記村沢の借地との境界線から改築建物の外壁又はこれに代わる柱の面まで1.5米の距離を保つて建築するのを相当とする。申立書添付の改築建物の図面によれば、申立人の計画は右の条件を充たさないが、右の計画図面は、別紙目録記載の改築建物の種類、規模、構造の範囲で、一部これを変更することによつて、右の条件を充たすことができると認められ、申立の趣旨も、右建物図面を確定的なものとするものではないと解される。
(3) また、改築建物の二階全部及び一階の一部は、アパートとして第三者に使用させるものと認められるが、これによつて直ちに近隣の居住環境が悪化するものとは認められないし、その他に、別紙目録記載の改築を不相当とする理由はない。
よつて、右改築は、別紙目録記載の条件を付して許可すべきものと考える。
三、そこで、右の改築を許可するについての附随処分の要否等について検討する。
(1) まず、本件賃借権の残存期間は九年余であるところ、本件は現存建物を取り毀わして新築するものであるから、借地利用関係の安定と永続化を図る借地法の趣旨から考え、右の存続期間を延長する必要がある。また、この点について、借地法第八条の二第二項の裁判は、同法第七条による土地所有者の異議権を喪失せしめるとする見解も考えられるが、このような全面的改築の場合に、増改築の制限の特約がある場合と否とで、異なる結果を生ずるのは疑問があり、当事者間に、同条の適用をめぐる紛争の生ずる虞れがある。そこで、この際、本件借地権の存続期間を昭和六三年一二月末日まで延長するのが相当である。
(2) 次に、賃料について、現在は一カ月一、三四五円(3.3平方米につき三五円)であるが、申立人は、本件改築を許可する裁判によつて、増改築制限の借地条件が、具体的に解除され、木造建物所有を目的とする範囲ではあるが、借地を最有効に使用することができるようになつて、これにより収益をあげることができるようになるので、この際、賃料を増額するのが相当であり、その額については、鑑定委員会の意見のとおり、3.3平方米につき、一カ月金五〇円とする。
(3) さらに、財産上の給付について考える。賃貸人は、一般的には、借地上の建物の増改築によつて建物の朽廃による借地権消滅の時期が延びて、期待的利益を失うとともに、期間満了による更新拒絶に際し、借地人の建物の買取請求権行使による買取価格が高くなることにより、高額の出捐を余儀なくさせられる不利益を蒙ることになり、また、本件においては、相手方主張の如く、相手方が隣接する賃貸地の居住環境を良好に保つという点から、一定の増改築には反対せざるを得ないということも、合理性が全然ないとはいえず、現存建物は近い将来に朽廃に至るようなものではないのに、申立人が本件改築を必要とするのはアパートにして収益をあげ、老後の生計の資を得るということにあり、賃貸借の存続期間も延長することなどを考えると、申立人は、この際、相手方に対して財産上の給付として、金銭の支払をするのが相当である。そして右の当事者間の利害を数額として算出するのは困難であるが、鑑定委員会の意見は、二通りの算定を行なつて、結局金一四万円を給付させるのが相当であるというのであつて、当裁判所も前記の諸事情を総合して、右のとおり、申立人は相手方に対し、金一四万円を支払うのを相当と考える。(福嶋登)
別紙
目録
(一) 改築の建物
木造瓦棒葺二階建居宅共同住宅
床面積一階63.83平方米
(19.31坪)
二階49.75平方米
(18坪)
但し、北側隣地境界線と建物の外壁又はこれに代わる柱の面との距離は1.5米以上とし、建物の北側に廊下を造る場合は、隣地に対する目隠しを造ること。 以上